公益財団法人 衣笠繊維研究所

公益財団法人 衣笠繊維研究所とは、

繊維学とその基礎学問領域の成果を研究報告書、書籍発刊、講演会など
の啓蒙活動によって広めるとともに、当財団が維持管理する国登録有形
文化財「衣笠会館」の一般公開事業を行う。

研究・技術開発

                   

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                学術講演会の開催

      平成29年度後期学術講演会 

   
    講演者 : 末弘由佳理 武庫川女子大学 生活環境学部 生活環境学科准教授
    日時 : 平成29年5月27日
    場所 : 公益財団法人 衣笠繊維研究所 2F 小集会室


      布の風合い’しっとり感’に関する研究        
        武庫川女子大学 生活環境学部 生活環境学科准教授 末弘由佳理  
                 


  

  講演要旨 :
        
   1. はじめに
                  布を手で撫でたり、握ったりした時の総合的な官能評価は「風合い」と表現され、
                 その基本要素として「こし」、「ふくらみ」、「しゃり」、「はり」、「きしみ」、
                 「しなやかさ」、「ソフトさ」がある。風合いの客観的評価法としては、KES
                   (Kabata's-evalution system)法[1]が知られており、布の基本風合いである「こ、
                   し」、「ぬめり」「ふくらみ」「しゃり」、「はり」、「きしみ」、「しなやか
                   さ」、「ソフトさ」に関する16個の物理量(引っ張り変形、曲げ変形、せん段変形、
                     圧縮変形、面特性、構造(重量及び厚さ)を基にした16項目の特性値)を求め、こ
                     れらの力学特値から感覚の強弱を算出することが提案されている。
           
             
           2. 布のしっとり感
              布の基本風合いの「ぬめり」とは、細くて柔らかい羊毛の繊維からもたらされる触感におけるなめらかさ、しなやかさ、柔らかさの
            混じった感覚と定義されている[1]。布の触感として、基本風合い以外の感覚も考えられ、その一つに「しっとり」という感覚がある。
            心地よい風合いを明らかにするために、布のしっとり感に着目した。「しっとり」は、「ぬめり」と同一視する考えもあるが、「しっ
            とり」は羊毛に限定されている触感ではなく、絹や化学繊維にも存在する感覚である。特に、ポリエステル、ナイロンなどの化学繊維
            での「ぬめり」評価では、ワキシ-な感覚とされ、悪い風合いイメ-ジとして捉えられることが少なくない。これまでに知られている
            感覚表現から、「しっとり」は「ぬめり」を包含した要素ではなく、異なった官能評価要素であると考えられる。「しっとり」と「ぬ
            めり」は異なる感覚であると作業仮説を立て、布の触角を客観的且つ主観的に評価した。その結果、「しっとり」を強く感じる布の特
            徴は、
             (1) 接触時接触時にあたたかいこと
             (2) 表面に若干の摩擦抵抗があること
             (3)圧縮に対してやわらかいこと
             (4)せん断に対してかたいこと
            などを明らかにし、布の「しっとり」と「ぬめり」とは異なる感覚であると結論づけた。


             3. 「しっとり」の英語バ-ジョンでの設定と外国人による触感評価
              布の基本風合いである「こし」、「ぬめり」、「しゃり」、「はり」、「ふくらみ」の英訳はそれぞれ、"Stiffness"、"Smooth-
              ness" "Crispness" 、"Spread, antidrape"、"Fullness and softness"であるが、"KOSHI" "NUMERI"、"SHARI"、"HARI"、"FUKU
               RAMI"と表すことが多い。これは上記の英訳では、ニュアンスの違いが生じることが考えられるからである。「しっとり」に関して
               もこれまで"Shittori"を用いてきたが、"Shittori"は日本語であることから、この一語のみでは、外国人には言葉の中身を理解しても
               らうことはできない。種々検討した結果、「しっとり」に対応する語として、"Baby's skin"を採用することにした。予備検討を基に、
               香港在住のx中国人学生を対象に、"Baby's skin"を評価用語として用いて、触感評価を行った。その結果、日本人学生が評価した
              「しっとり」の順位とほぼ同様の順位評価であり、対象とした中国人学生でも日本人と類似した感覚イメ-ジであることが明らかにな
               った。以上の結果を踏まえ、「しっとり」を説明するための用語として"Baby's skin"を用いるが、"KOSHI" "NUMERI"などの風合い
             などの風合いのように、「しっとり」の英語表記として"Shittori"をこれまでと同様に用いることで布の「しっとり」が基本風合いの
             ように認知され、独立した風合いとして国内のみならず国外でも確率することが可能ではないかと考えている。


            4. 新生児肌着における「しっとり」
              一日の大半の時間を仰向けの状態で過ごす新生児にとって、直接肌に触れる肌着は成人以上に着心地のよさが求められる。新生児 
               肌着は、多数のメ-カ-が取り扱っており、いずれもパタ-ンや縫製には大差はないが、使用している糸・布、価格は様々である。
             数種のメ-カ-の新生児肌着を試料として、新生児肌着にとって、「しっとり」が重要な感覚であるか否かを検討した。「しっとり」
             と関連の深い「肌触りのよさ」、「やわらかさ」、「あたたかさ」、「なめらかさ」との寄与度を算出した結果、「肌触りのよさ」と
             寄与が高く、新生児肌着において「しっとり」は重要感覚であることが分かったと同時に、「肌触りのよさ」と「しっとり」はそれぞ
             れが独立した感覚ではなく、「肌触りのよさ」を向上させる要素の1つに「しっとり」が関わっていることが示唆された。心地のよさの
             主たる感覚が「しっとり」である布は、皮膚が薄くて敏感な新生児にとって、着心地のよいものと言えよう。


               5. おわりに
              肌着等繊維製品において、「しっとり」を謳った製品を商品化する際に、「しっとり」判定は、従来型の官能検査を指標にして、カ
             テゴリ-分類する手法が依然として採用されていると言われている。物性値を代入すれば、「しっとり」の強弱を判定できる評価規定
             式を確立することができれば、個々の消費に関しての官能検査のみに頼ることなく物性値から「しっとり」を簡単、且つ、的確に判断
             することができる。開発された新素材群から、「「しっとり」とした心地よい候補素材」を迅速に見出すことが可能となり、アパレル
             業界で応用できることが期待される。本研究成果は、このゴ-ルを指向する助走研究と位置づけることができると考えている。
 

            引用文献
             [1] 川端季雄. 『風合い評価の標準化と解析 第2版』、日本繊維機械学会風合い計量と規格化研究委員会(1980)
             桐竹鳳凰ぶん、窠に霰文、小葵文、浮線綾(臥蝶丸・八藤の丸)文などがある(文様の名称は近世に名付けられたもの)。
              従来から、平安時代に国風文化が盛んになり和様化すると、正倉院の異国的な雰囲気を持つ強烈で恐ろしく緻密な文様は、温
             和で優しい調子の主題に変えられ、正倉院の文様との繋がりが切れたように思われがちであったが、今日では、正倉院の染織文
             様すなわち中国唐の染織文様との深い繋がりがあるという見方が有力である。

             







     平成29年度後期学術講演会 
   
    講演者 : 奥山誠義 奈良県立橿原考古学研究所 指導研究員
    日時 : 平成29年10月21日
    場所 : 京都アスニ- 5階 第7研修室
       京都市中京区丸太町七本松通西入

                放射光による多角的視点から見る染織文化財の構造と材料

                                奈良県立橿原考古学研究所 指導研究員 奥山誠義  
 
                  [講演要旨]: 
      文化財は、我が国の長い歴史の中で生まれ、はぐくまれ、今日まで守り伝えられてきた貴重な国民的財
     産である[1]。文化財保護法では、文化財を「有形文化財」、「無形文化財」、「民族文化財」、「記念
     物」、「文化的景観」及び「伝統的建造物群」と定義し、これらの文化財のうち、重要なものを国が指定・
     選定・登録し、重点的に保護している[2]。この文化財の中でも、土地に埋蔵されている文化財(遺跡)の
     ことを埋蔵文化財と呼んでいる。現在、日本では年間9,000件前後の埋蔵文化財調査、いわゆる遺跡の発
     掘調査が行われ、その発掘調査では、様々な遺物が出土している。天然繊維から成る織物などの繊維製
     品もわずかながら出土している。繊維製品が単体で出土することは珍しく、多くの場合、金属や漆など
     に伴って出土する。出土繊維製品は、顕微鏡等を用いた形態分析による繊維鑑定がおこなわれ、考古学
     および文化財分野における繊維研究が大きく進展した。また、材料調査のため化学分析の手法が導入さ
     れ出土繊維製品に対して「化学情報」を基にした議論が行われるようになった。現在は幅広い手法で織
     物やその材料の研究が行われている。なかでも2000年代以降、各分野に用いられ大きな成果を上げてい
     る放射光」が文化財にも用いられるようになった。
 
      放射光とは、荷電粒子(電子や陽電子)が磁場で曲げられるとき、その進行方向に放射される電磁波である[3]。放射光は明るく、指向性がたかく、また光
     の偏光特性を自由に変えられるなどの優れた特徴を持っている[3]。筆者らは、この放射光の特徴を利用して染織文化財、特に出土繊維製品の構造と材料の
     調査研究を行っている。
      構造研究は、放射光X線ラミノグラフィによる織物の構造と糸の断面形状の検討を行っている。放射光X線ラミノグラフィによる観察によって、非破壊的に
     出土染織文化財の織物構造と糸のおおよその断面形状を確認する成果が得られた。材料研究は、放射光顕微赤外分光分析によって、織物を構成する繊維素材
     と地下埋蔵環境中における繊維の化学的変化の検討を行っている。放射光顕微赤外分光分析は。5~10μm四方の微小な範囲で赤外分光分析が可能であるため、
     微少量試料による材料分析が可能である。文化財のような貴重な資料でもわずかに脱落した微小破片等を用いて材料を探ることが可能である。筆者らは単な
     る材料調査のみならず、繊維断面における繊維の変質を検討するための研究を継続的に行っている。


    引用文献
     1. 文化庁ホームペ-ジ(2017/10/18時点)
       http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/index.html
       2. 文化庁ホ-ムペ-ジ(2017/10/18時点)
       http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/syokai/maizo.html
     3. 大型放射光施設 SPring-8 ホ-ムペ-ジ(2017/10/18時点)
       http://www.spring8.or.jp/ja/about_us/whats_sr/