公益財団法人 衣笠繊維研究所

公益財団法人 衣笠繊維研究所とは、

繊維学とその基礎学問領域の成果を研究報告書、書籍発刊、講演会など
の啓蒙活動によって広めるとともに、当財団が維持管理する国登録有形
文化財「衣笠会館」の一般公開事業を行う。

   

      

          ≪学術講演会の開催≫                 
                 平成26年前期学術講演会

                        1. 講師       白井 孝治氏
                                   信州大学繊維学部生物資源・環境科学課程
                        2. 演題      「昆虫細胞の放射線応答の謎」
                        3. 日時       平成26年5月31日(土)
                                   午後2時30分〜3時45分
                        4. 場所       キャンパスプラザ京都 第1会議室
                                 (公益財団法人 大学コンソ−シアム京都)

  
   

                               講演要旨


                   はじめに
                   福島第一原発の事故以来、放射線の生物影響について関心が高まっている。しかしながら、放射線の生物影響の大半は哺乳類を対象としており、
                   それ以外の生物、昆虫などにおける影響の詳細には不明な点が多く残されている。

                   一般にカイコを含む昆虫やその細胞は放射線に耐性といわれる。哺乳類の個体やその細胞の50%致死線量が2Gy ― 5Gyであるのに対し、カイコ
                   幼虫などでは100GyのY線を照射されても、発育し成虫になることが報告されている。しかしながら、このように高い耐性を示す昆虫の放射線に
                   対する応答や抵抗性の機構については、未だに多くが謎に包まれたままである。演者は、日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所の重イオン
                   照射施設(TIARA)にて昆虫およびその細胞に重イオン(220 MeV 12C5 +、116.4 keV/μm)を照射し、その影響を調査してきた。今回は、そ
                   の中で得られた結果と今後の展望を中心に話題を提供します。

                   昆虫細胞への放射線照射とその影響
                   先ず初めに、昆虫細胞(Sf9細胞)の重イオンビ−ム抵抗性について調査した。10 Gy照射区は非照射の対象くとほぼ同程度の増殖を示した。
                   しかし、50 Gy以上の線量で照射した実験区では明らかな増殖抑制(阻害)が認められた。また、同時に生細胞数をトリパンブル−染色法で調査
                   したが、調査したすべての線量区において非照射区との有意な差は認められなかった。これらの結果は、これまで報告されたような昆虫細胞の放
                   射線耐性を支持するものであった。

                   放射線の研究では細胞の増殖能の消失、すなわち増殖死を指標として放射線耐性を評価するのが一般的であるため、次に照射後のSf9細胞のコロニ−
                   形成率を調査した。照射144時間後のコロニ−形成を指標に得られたパラメ−タ−はn=1.3、Dq=18 Gy、D0=84 Gyであった。D0値は生存率37
                   %を与える時の照射線量である。一般に哺乳類細胞のD0値は1〜3 Gyであることから考えて、やはりSf9細胞は極めて高いと言える。Dqは類しきい
                   値線量であり、障害からの回復能力の指標となる。得られた18 Gyという値も哺乳類細胞と比較すると極めて高い結果であった。

                   生体内の昆虫細胞の放射線に対する応答を調査するため、カイコ5齢幼虫造血器官内の血球前駆細胞の炭素イオン照射に対する応答を調査した。まず、
                   100 Gyの炭素イオンを照射したところ、血球前駆細胞の増殖は停止した。ところが、10 Gy照射区の血球前駆細胞では、全く照射の影響が観察されず、
                   非照射区の細胞とほぼ同じ速度で器官内の細胞数が増加していることが明らかになった。そこで、チミジンのアナログであるBrdUを用いて、照射後の
                   血球前駆細胞のDNA複製頻度を解析した。その結果、器官全体で多くの血球前駆細胞の核にBrdUの取り込みが認められ、盛んにDNA複製が行われて
                   いることが示された。
             
                   本研究により昆虫細胞の放射線耐性が確認された。中でも特に興味が引かれるのは線量10 Gyでの照射における応答であった。  

                   カイコ初期発生卵を用いた研究へ
                    10 Gyでは、ほとんどの哺乳類細胞の半数致死線量を超える。しかし、昆虫細胞ではほとんど何も無かったかのように増殖し続けた。しかし、必ず線量依存した傷害は昆虫細胞でもほぼ変わらない。
                    よって昆虫細胞は修復能が高く、炭素イオン照射による障害を短時間で修復し増殖を再開する可能性がある。この仮説の検証にカイコ初期発生卵を用いることにした。カイコ発生初期卵では核は約
                    1時間で分裂を規則的に繰り返すため、うまくいけば1時間単位で発生遅延(傷害修復期間)が検出可能と考えたわけである。

                    産下2時間後(受精直後)の卵に炭素イオンを全体照射し影響を解析した。その結果、線量10Gyの炭素イオンを照射されたカイコ卵では非照射卵と比較し2時間程度の遅延が認められた。すなわち、
                    10Gyの炭素イオンを照射された卵では、放射線障害の修復が約2時間で終了し、発生が再開されると推定される。発生の再開はほぼすべての卵で観察された。また発生の再開以降は停止することなく
                    規則的に核が分裂していることから、予想どおり照射直後(受精直後)に傷害の修復が行われていると示唆される。

                    発生を再開した炭素イオン照射卵の観察を続けると、多数の致死卵が認められた。胚帯形成前に致死した卵は実に552/973(56.7%)におよび、その後も胚帯形成後催青前で致死したもの103/973(10.6%)、
                    催青期に致死したものは278/973(29.5%)も認められた。最終的に孵化した幼虫は僅かに31/973(6.2%)であった。放射線障害の修復が完了し、発生を再開したはずの卵に多くの致死卵が観察されたことに
                    疑問を持ち調査すると、核の形態や移動に異常が認められる卵も観察された。よって、重イオン照射(10Gy)を受けたカイコ受精卵では照射による障害修復が不完全なまま発生を再開した可能性が高い。

                    致死卵における障害核の排除
                   致死卵全体の約6割を占める胚帯形成前に発生停止した卵に着目した。これらの卵は核分裂を再開するものの、胚帯形成以前に発生を停止する。その後、飼育環境下で長期間保護しても、発生が再開する
                   ことはない。

                   照射卵の核を観察すると、分裂しながら周辺に移動する様子が観察された。しかし、産下14時間後では、ほとんど核が観察されない卵が認められた。この時間は発生が再開した卵において核が周辺細胞質に
                   到達し、細胞化するステ−ジにあたる。照射により重大な障害をうけた卵の核が周辺細胞質での細胞化した直後に排除されることが示唆された。そこで、TUNEL法を行ったところ、産下10-14時間後の卵で
                   TUNEL陽性の核が多数検出された。

                   この結果からはカイコ卵の障害核の排除の戦略が考えられる。カイコ卵では、周辺細胞質に到達した核が細胞化する前には、たとえ重篤な障害を受けていても核の排除は行われない。これはこのステ−ジの
                   卵では同一の細胞内に多数の核が存在する状態であるため、障害をうけた核のみ(本研究では、受精期に放射線を照射したため、事実上全ての核が障害を受けているが)を排除することが出来ないためと思われる。
                   そこで、細胞化後に個々の核(細胞)をアポト−シスにより排除すると予想される。

                    今後の展望
                   現在、カイコ初期発生卵を用いた研究から浮かび上がった「2つの謎」について研究を進めている。第一はカイコ卵において傷害が完全に修復されないまま発生が再開する理由である。照射卵の致死率や致死の
                   ステ−ジから、明らかに傷害修復が不完全なまま発生を再開すると思われ、その機構は極めて興味深い。もう一つは発生を再開した核の排除機構である。発生を再開することから、一度は傷害を検出する「傷害
                   チェックポイント」をすり抜けたはずの傷害核が細胞化直後に排除されるわけであるが、ここではどの様なチェックが行われるのか不思議である。これらの謎を明らかにすることで、昆虫細胞の放射線応答につ
                   いてのさらなる理解が得られればと考えている。                                                                                                               
                                                                                                          このページの先頭へ
             

 
               平成25年前期学術講演会

                     1. 講師       平松 徹 氏
                              【元鞄激倹謦[複合材料技術部】
                     2. 演題      「炭素繊維(カ−ボンファイバ−)の特徴と用途」
                     3. 日時       平成25年6月1日(土)
                                午後3時15分〜午後4時45分
                     4. 場所       キャンパスプラザ京都第1会議室
                             (公益財団法人大学コンソ−シアム京都)


   

                               講演要旨


                    炭素繊維(カ−ボンファイバ−)は、炭素原子だけからなる繊維で、主にプラスチックと組み合わせた複合材料として用いられています。
                    炭素繊維は、鉄に比較して、比重が1/4と軽く、強度が10倍以上、弾性率(変形のし難さ)が7倍以上と力学的特性が非常に優れているため、
                    ゴルフシャフトやテニスラケットなどのスポ−ツ用具から風力発電に羽根、レ−シングカ−、圧縮天然ガス用高圧タンクやHU-Aロケットまで
                    多くの用途で活用されています。
                    特に、航空機用途においては、機体構造の50%に炭素繊維複合材料を使用したボ−イングB787ドリ−ムライナ―が注目を集めています。
                    炭素繊維は、高強度・高弾性率に加えて耐疲労性(繰返し荷重に耐える)や振動減衰性(振動が早く収まる)なども含めた力学的特性が優れて
                    いるとともに、耐腐食性(錆びない)、寸法安定性(温度変化に対する寸法変化が小さい)、熱伝導性、X線透過性などの機能的特性も優れて
                    いるため、力学的特性と機能的特性の両方を必要とするロボットア−ム、橋脚の補修補強、人工衛星のアンテナ、医療用CT天板などの多くの
                    用途にも使われています。
                     また、炭素繊維は、発明・開発・工業化および高性能化などに対する日本の寄与が大きく、世界の生産量の70%を日本の炭素繊維メ−カ−
                    占めるなど、日本が世界をリ−ドする重要な先端材料です。
                     炭素繊維は、航空機用途における大量使用時代の幕開けや一般用自動車への本格的展開の動向など、軽量化による省エネルギ−・CO2排出量削
                    減の切り札としての期待が大きく、今後も飛躍的な拡大が期待されています。
                     本公演では、炭素繊維について、他の材料と比較した特徴とその特徴を活用した用途を中心に詳しく紹介して頂きました。
 

                                                                                                           このページの先頭へ
 

     


                平成25年後期学術講演会

                       1. 講師       赤田 昌倫氏
                                  (独立行政法人 国立文化財機構 奈良文化財研究所埋蔵文化財センタ−保存修復科学研究室)
                       2. 演題      「古代の繊維にまつわる研究の歩みとこれからの発展」
                       3. 日時       平成25年12月7日(土)
                                  午後3時00分〜午後4時45分
                       4. 場所       公益財団法人 衣笠繊維研究所
                                (京都市北区北野下白梅町29番地)


   

                               講演要旨


                   1 はじめに
                    文化財とは、人々の活動を記録した遺産、遺物を指した言葉である。文化財の中で、繊維が使用されていたものは「繊維文化財」という細分化された項目に分類される。繊維から作られる製品は縄、衣服、袋など
                    多岐にわたり、古代から現代の各時代における人々の生活の変化や発展に直結してきたものである。そのため繊維文化財は過去の人々の活動にまつわる重要な記録が含まれていると言える。そのような記録を引き
                    出すためには、現代の様々な研究を通して明らかにする必要がある。

                   2 出土繊維文化財の調査方法
                    出土繊維文化財の調査方法は、絹や麻といった繊維の種類を明らかにするのか、縄や布といった製品の種類を明らかにするのか、劣化や変質状態を明らかにするのかによって、その調査内容は大きく異なる。

                    日本国内で出土する繊維の種類は地域や時代によって特徴がある。そのため繊維種同定は当時の文化形態を知ることができる重要な調査である。図1に鉄錆に覆われた出土繊維の実態顕微鏡写真を、図2に出土縄状
                    物質を、図3に横断面SEM画像を示す。繊維の横断面や繊維側面の形状を観察し材質を判断する。また、機器分析として赤外分光分析(FT-IR)と高速液体クロマトグラフィ−質量分析法(HPLC-MS)を使用した調査方
                    法がある。図1の鉄錆に覆われた繊維は分析結果から絹であると、図2の縄状物質は横断面の形状と分析結果から草本類であると判断された。

                    繊維種が判断された出土繊維文化財は、その材質や形状、編み方織り方から、どのような目的で使用された物質なのか、歴史学的な研究に用いられる。例として、布目順郎氏はその著書1)で、国内各地で出土した
                    絹繊維の繊維直径に着目し、その大きさから日本国内で生産された家蚕絹なのか、中国産の輸入絹なのか推定することができ、中国産と判断された絹製文化財の分布状況から日本と中国を結ぶシルクロ−ドの道程
                    について見解を述べている。

                    このように、出土繊維文化財は様々な歴史学的研究に用いられるが、一方で資料そのものが存在しなければ研究は成り立たない。そのため、編み方織り方などを維持したまま保存し、後世に残すための劣化研究も
                    必要である。図4に出土絹製文化財のIRスペクトルを示す。佐藤昌憲氏2)らは、出土絹糸と現代参照絹糸のIRスペクトルを比べると、アミド基が非常に特異なパタ−ンとなっていることを明らかにした。この現象
                    についてさらに解析を進め、300点以上の出土絹糸を無偏光と偏光赤外による分析をおこなった結果、主たる要因として、ポリペプチド鎖のC-N,N-H結合が特徴的に変質していることがわかった。

                    また、出土繊維の中には、肉眼や顕微鏡観察では繊維形状が確認できるにもかかわらず、繊維の有機質が失われているものが多数存在する。図5にPositive castingのSEM画像を、図6にNegative castingのSEM画
                    像を示す。大別すると、繊維がその形のまま無機化したもの"Positive casting"と、繊維自体は残存せず、繊維の周りを覆うように無機物質が存在するもの"Negative casting"がある。一つの繊維文化財の中でも調
                    査部位によっては両方のパタ−ンが確認されることもある。しかしながら、PositiveとNegativeはどのような条件下で発生するのか明確な結論は得られていない。この現象は肉眼観察による見分けが非常に困難で
                    あり、どちらが多く形成されているかによって保存処理薬剤の浸透性が異なることが考えられる。そのため、これらの形成メカニズムを明らかにし、特徴を把握することは、より適切な保存処理方法を検討するた
                    めの重要なテ−マの一つであるといえる。
          
                   3 まとめ
                   布目氏や佐藤氏らの研究によって、出土繊維文化財調査の基礎が築かれた。こらからは材質分析による結果を歴史学とリンクさせること、さらには文化財を保存するための劣化研究を進展させることが最も重要で
                   ある。様々な化学分析が繊維文化財に適用されたのは近年のことであり、その分析方法もほんの一部が活用されたに過ぎない。今後、既存の分析機器による継続的な研究から得られたデ−タとともに、新しい分析
                   方法が繊維文化財に応用され、歴史学的な要素や、繊維文化財の残すための研究への深化となることが期待されている。
 
                   

                                                 
                    図1 鉄さびに覆われた出土繊維文化財                       図2 平城京出土の縄紐                           図3 平城京出土の縄紐のSEM画像
   
                                                 
                    図4 劣化した絹のIRスペクトルと帰属表                   図5 Positivecastingの痕跡                              図6 Negative castingの痕跡                              
           
                   引用文献                      
                   1) 布目順郎:倭人の絹 ― 弥生時代の織物文化、小学館、1995      
                   2) 佐藤昌憲:30年後の文化財保存科学、繊維と工業、23-24,2006                     
                                                                                                           このページの先頭へ


 

     


                         
                平成24年度前期学術講演会
              
           1. 講師            清瀬 みさを氏(同志社大学文学部)
                              2. 演題            国登録有形文化財「衣笠会館」
                                              -藤村家洋館についての歴史的検証-
                              3. 日時              平成24年5月13日
                                               午後3時30分〜午後4時30分
                              4. 場所              キャンパスプラザ京都第3会議室
                                         

   

                               講演要旨


                         公益財団法人 衣笠繊維研究所が所有する「衣笠会館」(国登録有形文化財)について、その所有者であった藤村家への聞き取り調査、古写真など
                         からの検証、衣笠会館の棟札の発見、改修箇所の検証と当時の建築事情、住文化を総合して衣笠会館の建築の特質、歴史的位置づけなどについての
                         考察があった。
                         当該会館は、京都近代屈指の機業家・藤村岩次郎氏の屋敷3,500坪内の建造物の1棟で、明治37年10月1日に上棟された赤煉瓦造りの純粋な2階建
                         て洋館(衣笠会館)である。棟梁は京都綿ネル工場建設の筆頭請負人とおぼしき鈴鹿彌惣吉である(平成19年11月29日、京都市文化財保護課技師・
                         石川祐一氏立会のもとでの調査結果)。現在、この敷地の一部(約600坪)が残され、会館と附属棟、それを取り巻く日本庭園がある。この会館は
                         明治後期の国内では希少な和洋折衷住宅であり、竣工当初は純粋な洋風建築であった。その後、和室への改造を経て住宅に転用されたのが大正末期
                         から昭和初期であることが判明した。京都近代の殖産興業の立役者のひとりであった藤村岩次郎氏は、寒村であった衣笠村を拓き、会館に文化人を
                         誘致するなどして衣笠一帯の近代化への文化的磁場として活用されていた。
                         なお、衣笠会館は平成17年12月5日に国登録有形文化財(文部科学大臣)として登録され、現在も衣笠繊維研究所の活動拠点として使用されると共
                         に、一般市民に広く公開(無料)されている。
      
        


 

                  平成24年度後期学術講演会 
                             1. 講師            末沢 伸夫 氏(京都産業技術研究所)
                             2. 演題            織物
                                              〜伝統的織物から新しい利用分野への展開〜
                             3. 日時              平成24年11月10日
                                               午後3時30分〜午後4時30分
                             4. 場所              衣笠会館2F 小集会室
                                         

   

                               講演要旨


                         新しい技術を取り入れ発展してきた西陣織の歴史と幅広い分野に利用されている織物についての話題が提供された。

                       (歴 史)
                         京都太秦の地に養蚕がもたらされ、平安京の遷都とともに貴族たちの衣装として絹織物が発展してきた。西軍と東軍に分かれて応仁の乱がおこり、
                         職人たちが堺や地方にのがれた。戦後、山名宗全が陣を構えた西の陣に職人たちが戻り織物の生産を再開した。これが西陣の名称の云われであり、
                         今年が西陣呼称454年に当たる。その頃、中国から様々な織物が入ってきて、西陣の技術が優れていたため、豊臣秀吉の庇護のもと益々発展した。
                         江戸時代に入って飢饉や大火が発生し生産が衰退する。明治になって東京に都が移り、京都の衰退が危惧された。そこで、様々な対策がとられた。
                         その一つに当時世界最先端の織物製造技術を持つリオンに3人の技術者を派遣して、ジャカ−ドとバッタンなどを持ち帰った。ジャカ−ドは空引
                         機に取って代わって西陣の紋織物の高度化に大きな影響を与えた。されに、ダイレクトジャカ−ドの普及によりコンピュ−タによる紋デ−タが飛
                         躍的に発展した。

                       (織物の利用分野)
                         つづれ織は京都迎賓館をはじめインテリアに、風通織は自動車のサイドエアバック、無縫製織物(シ−ムレス)として、ビロ−ドは化粧品パフ、
                         シ−ト地、液晶パネル用ラビングクロスに、多重織は写真織や両面織に利用されている。素材としては、炭素繊維織物はバッグ、小物から自動車、
                         飛行機などに利用されている。このほかにも、織物は円筒織物、ジオテキスタイル、e-テキスタイルなど多くの分野に期待が広がっている。この
                         ように様々な分野に使われたり、また、利用されようとしている織物の現状に関する言及があった。


                                                                                                           このページの先頭へ  

     


                 平成23年度前期学術講演会
                    

                             1. 講師            横出 洋二氏(京都府立丹後郷土資料館)
                                 
                             2. 演題            相楽木綿の歴史と特徴
                                             
                             3. 日時             平成23年6月25日
                                              午後3時00分〜午後4時00分
                             4. 場所             衣笠会館2F会議室
                                                                       講演要旨


                         相楽木綿は、明治時代初期から昭和10年代にかけて、現在の京都府木津川し相楽地区を中心に生産された手織り木綿である。相楽郡は、奈良に
                       隣接した影響で、江戸時代初期より奈良の特産品であった奈良晒の生産が盛んで、木津や奈良の晒問屋を通じて京都・江戸に出荷され富裕な武
                       士や町人に愛用された。生地は地元の織屋の依頼で、農家の女性が賃織りし、晒屋が晒し作業をして仕上げた。しかし、明治時代に武士がいな
                       くなったなどの影響で奈良晒の需要が少なくなり、織屋の多くは麻蚊帳の生産へと転換した。しかし相楽村の織屋は、幕末から需要が伸びた絣
                       を特徴とする大和木綿の影響か、木綿織物の方に転換した。原料糸の購入、柄デザイン、整経は織屋が行い、紺屋で藍染した後、相楽村や周辺
                       農家の女性の賃織りで製織した。絣を特徴とする相楽村の木綿はいつしか「相楽木綿」と呼ばれ、南山城をはじめ、奈良、京都、滋賀、大阪な
                       どに流通し庶民の着物として愛用された。本公演では、相楽木綿の地域史的背景や織物の特徴および現在活動している相楽木綿の会の伝承活動
                       についての解説・説明があった。
      
        


 

                平成23年度後期学術講演会
                   
                             1. 講師            高橋 重三 氏(財団法人 衣笠会)
                                
                             2. 演題            環境に優しい繭の繰糸法の開発
                                              〜塩溶液法による繭の繰糸に関する研究〜
                             3. 日時              平成23年10月22日
                                               午後3時30分〜午後4時30分
                             4. 場所              衣笠会館2F 会議室
                                       

                         講演者らによって開発された「塩溶液法による繰糸」についての話題提供があった。当該生産プロセスは省エネルギ−で且つ環境に優しく、
                       繭糸本来の特性を保持した生糸が得られ、従来の「生繭繰糸法」や「塩蔵法」で生産された生糸とほぼ遜色のない力学的特性を有していた。
                       この結果から、生産プロセスにおける低環境負荷の新しい繰糸法を提案すると共に、今後の技術的課題について言及した。


                                                                                                          





 
                                                                                                          


 

    


                 平成22年度前期学術講演会
                 

                             1. 講師            中村 照子氏(帝塚山大学)
                                 
                             2. 演題            蚕血液のレオロジ−特性
                                             ―蚕の血液にも”さらさら”ってあるの?
                                             
                             3. 日時             平成22年5月19日
                                              午後5時00分〜午後6時00分
                             4. 場所             衣笠会館2F会議室
                                                                      講演要旨


                         レオロジ−とは、生体および生体を構成する物質の”流動と変形の科学”と定義され人間を含むすべての動物と植物、それらを構成する物質など
                       多くの日常生活に関係したものが研究対象になる。晴乳動物の血液についてのレオロジ−研究は多くなされているが、昆虫血液の流動下での粘
                       度測定に基づいたレオロジ−研究はほとんどなされていない。蚕血液は細胞浮遊液(cell suspension)に特徴的な非ニュ−トン流動を示し、5齢
                       前期の蚕血液は、見かけの粘度も非ニュ−トン性も5齢後期に比べて著しく低い。また、不吐糸蚕とよばれる繭を作らない蚕血液のレオロジ−
                       特性を示す物理量(降伏値・粘度)は顕著に低いこと、さらに、各種人工飼料育蚕については、5齢前期後期の成長過程にかかわらず、飼料組成
                       の桑粉末の添加濃度含有量が高くなるほど粘度が低下していた。これらの知見はレオロジ―特性研究が、蚕血液の成長過程における生理現象の把
                       握に有効な指標となり得ることを示唆している。これに加え、ナチュラルSEM(日立製S3500N)を用い、採取直後の”限りなく自然に近い状態”で
                       の蚕血液細胞の構造観察の結果や、蚕血液中のトレハロ−ス、シアル酸、不飽和脂肪酸、デオキシノジリマイシン(DNJ)などが5齢前期血液中に
                       含まれ、これらの成分により血液の流動性が高められることの論述があった。
                       
      
        

                 平成22年度後期学術講演会
                             1. 講師            馬場 まみ 氏(華頂短期大学教授)
                                 
                             2. 演題            近代の文様
                                            
                             3. 日時              平成22年11月4日
                                               午後5時00分〜午後6時00分
                             4. 場所              衣笠会館2F 会議室
                                        

                          講演要旨


                         京都における染織文様の近代化の流れをたどり、呉服商や百貨店、図案家や職人たちが近代デザインの展開にどのように取り組み、明治から
                       昭和初期の京都でどのような染織品が創り出されたかなど、詳細な解説がなされた。