公益財団法人 衣笠繊維研究所

公益財団法人 衣笠繊維研究所とは、

繊維学とその基礎学問領域の成果を研究報告書、書籍発刊、講演会など
の啓蒙活動によって広めるとともに、当財団が維持管理する国登録有形
文化財「衣笠会館」の一般公開事業を行う。

 

   秋期講演会の開催

平成30年年度秋期学術講演会
 日時 : 平成30年10月20日
 場所 : 京都アスニ- 5階 第7研究室
    京都市中京区丸太町七本松通西入
  1.講演者:島袋順二 京都工芸繊維大学 技術専門員
 
   演題:家蚕人工飼料育の生物生産における応用的研究
        講演要旨 :演者は無菌人工飼料システムの二つのテーマに関する成果について話した。


家蚕繭生産から織物生産の実践的教育への人工飼料育技術の導入。
 無菌人工飼料システムは年間を通してカイコを無菌的に飼育でき、周年型蚕糸生産システムとも言える。ここで産出されたカイコやマユは学生実習に用いるだけではなく、生物材料として他大学や地域の高等学校へカイコやサナギを分譲し教育や研究に役立っている。
周年型蚕糸生産システムにおける安価な人工飼料開発のため、粉末状ケナフを用いた新飼料を開発した。さらに、熱帯性蚕品種の人工飼料に対する適合性を検討したところ、全齢桑育と全齢人工飼料育との間ほぼ同じ性質を持つ繭糸が取れることが分かった。
   
カイコサイポウイルスの多角体へのタンパク質の固定化とその応用
カイコサイポウイルスは、そのウイルス粒子が多角体と呼ばれるタンパク質結晶に包埋されている。そこで、遺伝子工学的手法によってウイルス粒子に代わって下記の有用物質を包埋した多角体を作成した。すなわち、血管形成に関わる血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と血管新生抑制作用を示すエンドスタチン固定化多角体をマウスに局所投与すると血管形成と腫瘍成長の抑制が観察された。bone morphogenetic protein-2BMP-2)を固定化した多角体では、自然治癒不可能な大きさの骨欠損を完全に治癒する効果を認め、BMP-2固定化多角体は骨再生治療の効果を高めるものと期待されることを示した。この他、線維芽細胞増殖因子であるFGF-2多角体とFGF-7多角体によるケラチノサイトの増殖と分化の誘導効果ついても述べる。従って、このような有用物質固定化多角体が、周年型蚕糸生産システムで飼育した蚕で大量生産されることが期待されている。

2.   講演者:根岸明子 公益財団法人 衣笠繊維研究所 理事
演題:光干渉発色織物について
講演要旨:光干渉発色織物とは、一般的に行われている染料、顔料などの色素類を用いた染色ではなく、光の波としての性質を利用して発色させた織物である。
 人は可視光の波長(組成)の違いを色の違いとして感じる。したがって織物を見るとき、照明光に対する反射光の反射率を波長相互で差をつければ、その反射光の波長組成をその織物の色として認識する。



展示品では、光干渉を生じる薄膜を織物表面の個々の繊維に加工形成して発色させている。その原理は、薄膜干渉と呼ばれるもので、入射光を二分して表面と裏面で反射させ光路差をつけた後、再び光を合わせてそれらの位相差によってたがいに干渉させるというものである。そのため色は薄膜の厚みで変化し、従来の染色とは異なる色感が得られている。  干渉発色は自然界にも多く存在する。そのうちの生物類の写真も一部紹介した。


                特別講演会の開催

      平成30年度特別講演会 

   
    講演者 : 松岡 瑛美 京都工芸繊維大学大学院 建築学専攻
           (平成30年4月より文化施設、商業施設の設計、展示を手掛ける乃村工藝社に勤務予定)
    日時 : 平成30年3月24日
    場所 : 公益財団法人 衣笠繊維研究所 2F 小集会室


     お蚕博物館・ラボラトリ-の設計
  講演要旨 :
   1. はじめに:
  蚕は1800年前に日本に伝わって以来、日本人の生活を支え、文化を成熟させてきた。養蚕業は今、衰退の一途をたどっている。しかし、蚕の時代は終わったわけではない。長年、その生態や遺伝について研究されてきた蚕は今、遺伝子組み換え繭から新素材や様々な性質の蛋白質を作り出し、医療分野な どで大きな利益をもたらしている。これまでの蚕の歴史を継承すると同時にこれからの未来に目を向けた新たな価値を創造していくためのお蚕博物館・ラボラトリ-を設計した。コンセプトは、蚕の歴史、これからの可能性を伝 えることと、科学と芸術の交流拠点となることである
  2. 敷地の選定:
   蚕にゆかりのあるまちである太秦、花園、嵯峨野を選定した。この地の歴史は、6~7世紀頃、渡来系の豪族「秦氏」が養蚕、機械などの技術をもちこみ、栄えさせたことからはじまった。ゆえに蚕ノ社など、蚕の神様を祀った古い神社や、双ヶ岡や蛇塚古墳など、秦氏の墓が多く残っている。「太秦」や「帷子ノ辻」「きぬかけの路」など、絹にまつわる地名も多い。一方で、この地は旧京都工芸繊維大学繊維学部があった地でもあり、近代日本の養蚕業を支えてきたという歴史もある。そしてかつての工繊大の桑畑のあった地に、現・工繊大嵯峨キャンパスが建てられ、広大な桑畑で育った蚕を使って、最先端の研究が行われている。
          
    3. 展示内容
    お蚕博物館
      養蚕道具の展示インテリア: 長い年月をかけて洗練され機能的な美しさを持つ養蚕道具を展示、またインテリアとして利用する日本文化と蚕の歴史を展示: 蚕は古事記、万葉集などにたびたび登場し、蚕の神様を祀った神社も多く存在することから、日本 人の感性と強く結びついていることがよくわかる。
 
     新素材開発の展示: 遺伝子組み換え繭は、液体やフィルム、ゲルなどに姿を変え、医療素材として活躍している。

    お蚕ラボラトリ-
     研究発表・科学と芸術の交流の場: 新素材、新技術から作品つくりの着想を得たり、美術やデザインを通して科学研究をより多く の人に伝えたり、という相互関係を築き、活動的な場にする
    蚕とテクノロジ-を融合させた作品つくり・展示: 蚕の吐き出す糸と、コンピュ-タ-技術を組み合わせ、絹のパビリオンを作る試みがKITメディアラボで行われた。新技術と蚕が拓く可能性は無限大だ。
    織物・染色、芸術作品の展示: 伝統技術を受けつぎながら、作品作りを行う現代作家たちの作品展示を行う。